京都市・桂駅近くの鍼灸院
鍼灸院みらい京都桂
〒615-8073 京都府京都市西京区桂野里町41-35 松風桂ビル4F
桂駅 徒歩約3分、近くにコインパーキング有り
過敏性腸症候群に対する鍼灸治療の効果について、これまでの研究成果をご紹介します。
鍼灸治療は、IBSのお腹の症状(腹痛、便秘・下痢、膨満感、便意切迫感、胃のもたれ、食欲低下など)や全身の症状(肩こり、頭痛、イライラ、抑うつ感、ストレス症状など)の緩和が期待出来ます。
鍼灸治療は、自律神経に作用して胃腸の調子を整え、脳に作用して神経の興奮やIBSに特有な胃腸の過敏を緩和します。
また、セロトニン拮抗薬や抗うつ剤などの薬物にみられる副作用もありません。
当院では、排便状況や身体に関する事、ライフスタイルや仕事などの社会面、服薬状況など詳しくお聞きし、東洋医学的に身体をみて総合的に病態を推察します。
臨床・基礎研究のエビデンスに基づいた個別の鍼灸施術と日常生活における注意点や改善点のアドバイスによりIBS症状の改善を目指します。
過敏性腸症候群に関するお悩みはお気軽にご相談ください。
「IBSの様々な症状に対して鍼灸治療が本当に効果があるのか」という疑問に答えるために、世界中の国々でIBS患者を対象に鍼灸治療の臨床研究が行われ、その結果が論文として報告されています。
ここでは国内外のIBSに対する鍼灸治療の臨床研究の成績について紹介します。
1.Acupuncture treatment for irritable bowel syndrome. A double-blind controlled study.
25名のIBS患者に対して、合谷に置鍼(30分)を4週間行うと、全身状態と腹痛が改善された。
2.Acupuncture treatment in irritable bowel syndrome.
43名のIBS患者に対して、太衝・足三里・三陰交・中脘・梁門・天枢・神門・百会に鍼治療を2/週で10回(計20回)行うと、IBSの症状スコアが改善した。
3.A treatment trial of acupuncture in IBS patients.
230名のIBS患者に対して、下脘・天枢・太衝・公孫・内関・上巨虚に置鍼(20分)を2/週で3週間行うと、IBSの症状スコアが改善した。
4.Symptom management for irritable bowel syndrome: a pilot randomized controlled trial of acupuncture/moxibustion.
29名のIBS患者に対して、個人に応じたツボに鍼治療・灸治療を2/週で4週間行うと、腹痛、腹部膨満、排ガス、便の性状が改善した。
5.Acupuncture for irritable bowel syndrome: primary care based pragmatic randomised controlled trial.
116名のIBS患者に対して、中医学的な診断を元にした個人に応じた鍼治療を約3ヶ月間に平均10回行った。
IBSの症状の度合いを評価するIBS Symptom Severity Scale(SSS)が、鍼治療を併用した場合に有意に減少した。さらにその効果は6ヶ月後、12ヶ月後も持続した。
6.Comparison of Electroacupuncture and Mild-Warm Moxibustion on Brain-Gut Function in Patients with Constipation-Predominant Irritable Bowel Syndrome: A Randomized Controlled Trial.
便秘型IBS患者63人に対して、天枢・上巨虚に鍼通電(2Hz 30分)あるいは温灸を6回/週で4週間行った(計24回)。
鍼通電群では、腹痛、腹部膨満感、排便回数(約2/週→約5/週)、排便困難感、便の性状(ブリストルスケール;約1.5→約3.3)が改善した。
また、不安感、抑鬱感が治療直後から3ヵ月後にわたって改善した。
さらに直腸をバルーンで刺激した時の排便切迫感や痛みも改善した(温灸より効果があった)。
MRIで直腸をバルーンで刺激した時の脳の神経活動をみると、前帯状皮質、前頭前皮質などの神経活動が活性化したが、鍼通電治療後には活性が低下した。
このことから、IBSの患者さんは直腸の知覚が過敏になっているため、バルーンで刺激すると脳の神経活動が高まり腹痛などの症状が起こりますが、鍼灸治療により知覚過敏が改善しバルーン刺激による脳の興奮が治まったと考えられます。
一方、温灸群では、腹痛、腹部膨満感が改善したが、排便困難感、排便回数(約2/週→約3/週)、便の性状は改善されなかった。
以上をまとめますと、この研究においては、便秘型IBSには温灸より鍼通電の方が効果があったと言えます。
7.Comparison of electroacupuncture and moxibustion on brain-gut function in patients with diarrhea-predominant irritable bowel syndrome: A randomized controlled trial.
下痢型IBS患者62人に対して、天枢・上巨虚に鍼通電(2Hz 30分)あるいは温灸を6回/週で4週間行った(計24回)。
鍼通電群では、腹痛、腹部膨満感が改善したが、排便切迫感、排便回数(約5/週→約4/週)、便の性状は改善されなかった。
一方、温灸群では、腹痛、腹部膨満感、排便回数(約5/週→約2/週)、排便切迫感、便の性状(ブリストルスケール;約6.4→約4.5)が改善した。
また、不安感、抑鬱感が治療直後から3ヵ月後にわたって改善した。
さらにS状結腸のセロトニン(5-HT)が健常者と比べて下痢型IBS患者で増加していたが、鍼通電、温灸により減少した(特に温灸で減少した)。
以上をまとめますと、この研究においては、下痢型IBSには鍼通電より温灸の方が効果があったと言えます。
8.Electroacupuncture versus Moxibustion for Irritable Bowel Syndrome: A Randomized, Parallel-Controlled Trial.
IBS患者82人に対して、天枢・上巨虚に鍼通電(2Hz 30分)あるいは温灸を6回/週で4週間行った(計24回)。
鍼通電、温灸ともに腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐などの症状が改善した。
便秘には鍼通電、下痢には温灸のほうが効果があった。
また、健常人より増加していたS状結腸のセロトニン(5-HT)は、鍼通電、温灸によってともに減少した。
9.Electroacupuncture for patients with diarrhea-predominant irritable bowel syndrome or functional diarrhea: A randomized controlled trial.
下痢型IBS患者448人に対して、①曲池・上巨虚への鍼通電(15Hz 30分,16回/4週)、②天枢・大腸兪への鍼通電(15Hz 30分,16回/4週)、③ロペラミドによる薬物療法の効果を比較した。
鍼通電はロペラミドと同等の効果を示した(排便回数が減少、便性状が改善、普通便が増加)。
ロペラミドは下痢の頻度を減少させる際に用いられる経口止瀉薬。商品名ロペミン。イレウス、巨大結腸、消化器症状、ショック、アナフィラキシーなどの副作用がある。
鍼灸治療には副作用がありませんので、薬物と同等の効果があるのであれば、鍼灸治療の方が安心かもしれません。
10.Brain regions involved in moxibustion-induced analgesia in irritable bowel syndrome with diarrhea: a functional magnetic resonance imaging study.
下痢型IBS患者80人に対して、中脘、気海、天枢への灸治療を3回/週で2週間行った。
灸治療はIBS患者の症状、QOLを改善した。
また、灸治療はバルーン伸展による直腸の痛みを軽減させた。
さらに灸治療により直腸伸展刺激による脳の神経活動の興奮が消失した。
11.松本 淳,石崎直人,苗村健治,山村義治,矢野 忠
罹病期間が4年以上の長期に渡り薬物治療でも症状が改善しなかったIBS患者4人を対象に、週1、2回で計10〜20回の鍼灸治療を行った。
4名中3名に腹痛、腹部膨満感、QOLの改善が見られた。
改善がみられなかった1人は、抑うつ感や不安感などの精神症状が強かった。
このことから、精神症状が強い場合は、心理療法なども行うことが必要かもしれません。
【臨床研究のまとめ】
1.鍼灸治療でIBSの腹痛、腹部膨満感、排便切迫感、QOL(生活の質)が改善
腹部や手・下腿のツボへの鍼(置鍼や鍼通電)あるいは灸治療が、IBSの様々な症状(腹痛,腹部膨満感,排便切迫感など)や排便回数、便の性状、QOLなどを改善したことが多く報告されています。
また、直腸をバルーンで伸展した時の痛みや脳の神経活動の興奮を抑制したことから、鍼灸治療がIBSの知覚過敏に効果があったことも報告されています。
2.タイプ別の鍼と灸の効果
IBSのタイプ別では、便秘型には鍼、下痢型には温灸が特に効果があったことが報告されています。
3.鍼灸治療の回数と期間
鍼灸治療の回数(頻度)については、1回の治療時間が30分から1時間、治療回数は週に3〜6回を2週間〜2ヵ月程度継続して行った場合に効果があったと報告されています。
治療回数(期間)については、症状の程度や罹病期間によっても異なりますが、数週から数ヶ月の継続が必要と考えられます。
4.鍼灸治療が抑うつ感・不安感などのメンタル面を改善
IBSの病態には心理的な要因が関わっていると言われています。
鍼灸治療がIBS患者の抑うつ感や不安感などを改善したことが報告されていますが、精神症状が強い場合は効果がなかったとも報告されています。
精神症状が強い場合は、専門的な治療をあわせて行うことが必要と考えられます。
医学・医療において、薬や治療法が、なぜ・どのように効果があるのか(メカニズム)を実験研究によって客観的に証明したエビデンスが必要です。
もちろん鍼灸治療が、IBSの便通異常や症状にどのように作用するのか(メカニズム)を実験研究によって検証したエビデンスが必要なのは言うまでもありません。
これまでに報告されているIBSに対する鍼灸治療の実験研究の結果を、当院院長が行った研究と海外の研究結果について紹介します。
下痢型IBSに対する鍼刺激の効果とそのメカニズムを調べるために、ラット(ネズミ)を用いて実験を行いました。
ラットなどの実験動物に急性・慢性のストレスを負荷すると、IBSモデル動物を作製することができます。
拘束ストレスといってラットを狭い箱などに数時間、閉じ込めておくと結腸の蠕動運動が亢進し、かなりの排便をする様になります。
IBSはストレスなどの心因が原因となることがありますので、まさにその様な状態になります。
実験ではあらかじめ手術をしてラットの結腸にチューブを留置し、チューブのもう一方の先端を体外に出しておきます。
チューブからラットの結腸の中に特殊なマーカーを注入し、その流れを測定することで結腸の蠕動の状態を調べることができます。
拘束ストレスはスーパーで購入した飲料水を入れるボトルにラットを入れて負荷しました。
図1のグラフに0から10まで目盛りがありますが、10までいくと結腸の最後までマーカーが流れたことになります。control(対照群)(白のバー)つまり、拘束ストレスを負荷しないラットでは、5くらいですので半分ぐらいマーカーが流れていますが、拘束ストレスを負荷されたグループでは、7以上まで流れています(黒のバー)。
つまり拘束ストレスにより結腸の蠕動が亢進したことがわかります。
拘束ストレスを負荷している間中に足三里のツボに相当する部位に鍼をして電気を流しますと(黄色のバー)、マーカーの流れが5くらいでした。
つまり、鍼刺激がストレスによる結腸の移送(流れ)の亢進を抑えたことになります。
このことから鍼灸治療は、IBSによる結腸運動の亢進を抑制し、下痢を改善する可能性が考えられます。
次の実験では、ラットに拘束ストレスは負荷しないで、ストレス時に放出されるホルモンであるCRF(corticotropin releasing factor:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を脳脊髄液中に注射しました(図2)。
対照群(白のバー)に比べて、CRFの注射によって結腸の移送が亢進しました(黒のバー)。
CRFは慢性のストレスにより脳の視床下部から分泌され、様々なストレス反応を引き起こす副腎皮質刺激ホルモンを放出させるホルモンです。
IBSの病態にも関係しているものです。
足三里のツボに相当する部位に鍼をして電気を流しますと(黄色のバー)結腸の移送(流れ)の亢進が抑えられました。
つまり足三里への鍼刺激は、脳内のCRFの分泌を抑制した可能性が考えられ、鍼灸治療はIBS以外のストレス症状にも効果のあることが確認出来ました。
IBSでは便通異常だけでなく、心窩部痛(みぞおちの痛み)、嘔気、嘔吐、食欲不振、胸やけなどの上部消化器症状(胃の症状)を訴える場合があります。
つまり結腸だけでなく胃の機能も低下していることがあります。
そこで拘束ストレスを負荷して、胃の排出力を調べました。
ラットを絶食して、空腹状態で1.5gのエサを完食させ、一定時間後の胃に残ったエサの量を測ることで、胃の排出力がわかります。
対照群(白のバー)では約60%であった胃の排出力が、拘束ストレスを負荷すると約30%の半分に低下しました(黒のバー)(図1)。
この状態で、足三里のツボに相当する部位に鍼をして電気を流しますと(赤色のバー)約50%まで胃の排出力の低下が抑制されました。
また、さきほどの実験と同様に、CRF(corticotropin releasing factor:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を投与した場合も同様な結果となりました(図2)。
つまり足三里への鍼刺激は、ストレス反応である胃の機能低下を抑制したことが確認出来ました。
この実験からわかった興味深いことは、足三里への鍼刺激はストレスによる胃の機能低下と結腸の機能亢進を同時に予防あるいは改善できる可能性があることです。
この実験研究の内容は、2006年の『Digestive Diseases and Sciences』というアメリカの消化器の医学雑誌に論文として掲載されました。
東洋医学では古代中国で考え出された『陰陽論』を重要視しています。
世の万物はすべて陰と陽から成り立っていて、どちらか一方だけでは成り立たたないという考え方です。
例えば能動的な性質が陽、受動的な性質が陰、男が陽、女が陰、昼が陽、夜が陰、春夏が陽、秋冬が陰、東南が陽、西北が陰、上昇が陽、下降が陰といったように、物質だけでなくすべての事象に当てはめています。
この陰と陽の二気はたえず増えたり減ったり変化し、陰と陽の二気が調和して自然の秩序が保たれていると考えられました。
現在でも陽気な人、陰気な人、山陽、山陰など陰陽のつく言葉は多く使われています。
鍼灸治療においても、高ぶりすぎた(亢進した)気を静めたり、落ち込んだ(低下した)気を高めて、陰陽のバランスを調整することを目的としています。
この実験では、鍼刺激がストレスにより低下した胃の機能を高め、逆に亢進した結腸の機能を抑えて正常な状態に戻したことは、まさにこの『陰陽論』があてはまるのではないかと思います(図3)。
現代医学的に解釈すれば、鍼灸治療は体の機能を調整している自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを調整することがあてはまります。
IBSの主要な病態として消化管の知覚過敏があります。
IBSの患者さんは結腸や直腸の知覚が過敏なため、健康時では問題のない刺激でも腹痛や結腸の蠕動亢進を起こします。
この知覚過敏の原因は、セロトニン(5-HT)と呼ばれる神経伝達物質の増加によります。
セロトニンの90%は腸管の細胞内にありますが、その他は脳内にも存在し、脳内のセロトニンの減少とうつ病が関係していると言われています。
西洋医学ではIBSの治療薬としてセロトニンの働きを抑える薬が開発されています。
一方で、知覚過敏に対する鍼灸やツボ刺激に関する研究も世界的に多く行われています。
直腸の知覚閾値(いきち)とは、直腸が痛みなどを感じるレベルのことで、IBSの患者さんでは健康時より閾値が低下、つまり微小な刺激でも痛みを感じてしまう過敏な状態にあると言われています。
ビーグル犬の直腸にバルーン(風船)を挿入し、バルーンを膨らませると便意と痛みを誘発することができます。
イヌから痛みの程度を聞くことはできませんので、直腸の痛みを評価するために血圧を測定しました。
直腸の痛みが強くなるにつれて血圧が上昇します。
図1のグラフ左の白いバーはバルーンに空気を30cc注入した時の血圧の上昇値、黒いバーは空気を40cc注入した時の血圧の上昇値です。
注入する空気の量が増すと痛みも増して、血圧が上がります。
グラフ右は足三里に鍼をして20分間、電気を流した時のものです。
グラフ左の鍼通電刺激をしていない場合と比べて、直腸のバルーンに30cc、40ccの空気を注入してもそれほど血圧が上昇しませんでした。
つまり足三里への鍼通電刺激で直腸の痛みが抑えられたことが考えらます。
足三里というツボは、胃腸などの消化器症状だけでなく、痛みを止める(鍼麻酔)効果があることが多くの研究で証明されています。
この足三里の鎮痛効果には、オピオイドと呼ばれる物質が関わっていることが明らかになっています。
オピオイドとは、中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似した作用を示す物質の総称で、植物由来のものや化学的に合成されたもの、体内で産生される内因性のものなどがあり、手術やがんの痛みに用いられます。
足三里に鍼を刺入して数十分間電気を流すと、脳内に内因性のオピオイドが分泌され痛みが緩和されます。
足三里への鍼通電刺激による直腸の痛みの抑制にオピオイドが関係しているかを調べるために、オピオイドをブロックできるナロキソンという物質をイヌに投与しました。
すると足三里による血圧抑制効果がブロックされました(図2)。
つまり足三里による直腸の痛みを抑える効果には、脳内のオピオイドが関係していることが証明されました。
IBS患者さんでは脳脊髄液中にβ-エンドルフィンなどのオピオイドが減少していることが報告されています。
鍼灸治療は脳内のオピオイドの分泌を増加させ、IBSによる消化管の知覚過敏を改善できる可能性が考えられました。
この実験の内容は、2005年の『Digestive Diseases and Sciences』というアメリカの消化器の医学雑誌に論文として掲載されました。
消化管の知覚過敏に対する鍼灸・ツボ刺激の研究は、海外でも多く行われています。
ここでは主な研究論文を紹介します。
1.Transcutaneous electrical acustimulation can reduce visceral perception in patients with the irritable bowel syndrome: a pilot study.
7名のIBS患者が対象。
足三里・内関に電気刺激(5Hz)を行うと、直腸の知覚閾値が上昇した。
2.Rectal hypersensitivity reduced by acupoint TENS in patients with diarrhea-predominant irritable bowel syndrome: a pilot study.
下痢型IBS患者24名、便秘型IBS患者20名 、機能性便秘患者30名が対象。
合谷・足三里に電気刺激(100Hz,30分間)を2回/週で2ヵ月間行うと、下痢型IBS患者の直腸の知覚閾値が上昇した。
さらに下痢型IBS患者の知覚過敏、排便回数、腹痛が軽減した。
3.Acupuncture has a placebo effect on rectal perception but not on distensibility and spatial summation: a study in health and IBS.
9名のIBS患者が対象。
小腸兪・白環兪(仙骨部S3,S4にあるツボ)に鍼通電刺激(10Hz)を行うと、直腸の知覚閾値が上昇した。
1.Effect of electro-acupuncture on substance P, its receptor and corticotropin-releasing hormone in rats with irritable bowel syndrome.
天枢・上巨虚に鍼通電刺激(2−50Hz,15分)を連日7日間行うと、視床下部のCRF(corticotropin releasing factor;副腎皮質刺激ホルモン放出因子)を減少させた。
2.Electro-acupuncture relieves visceral sensitivity and decreases hypothalamic corticotropin-releasing hormone levels in a rat model of irritable bowel syndrome.
上巨虚に鍼通電刺激(2−50Hz,20分)を連日7日間行うと、CRFを減少させた。
3.Acupuncture at both ST25 and ST37 improves the pain threshold of chronic visceral hypersensitivity rats.
天枢・上巨虚に鍼通電刺激(2−100Hz,20分)を連日7日間行うと、腸管粘膜内のセロトニン(5-HT)を減少させた。
4.Electro-acupuncture attenuates stress-induced defecation in rats with chronic visceral hypersensitivity via serotonergic pathway.
足三里・三陰交に鍼通電刺激(2Hz,30分)を行うと、腸管粘膜内のセロトニン(5-HT)を減少させた。
5.Effects of electroacupuncture at ST25 and BL25 in a Sennae-induced rat model of diarrhoea-predominant irritable bowel syndrome.
天枢・大腸兪に鍼通電刺激(2−15Hz,30分)を12日間行うと、センナにより誘発された下痢症状(下痢、小腸の移送亢進、EC cellの増加、セロトニン(5-HT)の増加)が改善した。
6.Analgesic effects of electroacupuncture at ST25 and CV12 in a rat model of postinflammatory irritable bowel syndrome visceral pain.
天枢・中脘に鍼通電刺激(2−15Hz,30分)を12日間行うと、結腸のEC cell(クロム親和性細胞)数とセロトニン(5-HT)を減少させた。
7.Comparison of Electroacupuncture and Moxibustion for Relieving Visceral Hypersensitivity in Rats with Constipation-Predominant Irritable Bowel Syndrome.
便秘型IBSモデルラットの上巨虚に鍼通電刺激(1mA,3mA,10分)あるいは灸刺激(43℃,46℃)を連日7日間行うと、知覚過敏を軽減、結腸のセロトニン(5-HT)を減少させた。鍼通電刺激の方が灸刺激より効果があった。
8.Electro-acupuncture decreases 5-HT, CGRP and increases NPY in the brain-gut axis in two rat models of Diarrhea-predominant irritable bowel syndrome (D-IBS).
下痢型IBSモデルラットに天枢・足三里・太衝に鍼通電刺激(2−15Hz,30分)を2週間行うと、セロトニン(5-HT)を減少させ、下痢症状が緩和した。
9.Effect of electroacupuncture on visceral hyperalgesia, serotonin and fos expression in an animal model of irritable bowel syndrome.
足三里に鍼通電刺激(10Hz,20分)を3日間行うと、脳幹にある縫線核や脊髄後角など中枢にあるセロトニン(5-HT)を減少させた。
プラセボ効果(プラシーボ効果)をご存じでしょうか?
プラセボ効果とは、偽薬効果とも呼ばれており、本来は薬効として効く成分のない薬(偽薬)を投与したにもかかわらず、病気が快方に向かったり治癒することを言います。
つまり治療行為や薬剤に生物学的効果はないが、心理的な効果が影響し効果が見られることを言います。
例えば医師に診察してもらったり薬を処方してもらったことで安心感がうまれ、病気が良くなることがあります。
現在、根拠に基づく医療(EBM)を提供するために、その医療の根拠を厳密に分析・評価する取り組みであるコクラン共同計画が世界組織で行われています。
世界中で行われた様々な医療の臨床試験の論文をくまなく調査し、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)のような質の高い研究のデータを分析するシステマティック・レビュー (sytematic review) が行われています。
ランダム化比較試験とは、対照群と治療群の2群を設定し、ランダム化つまり無作為(研究者の思惑がはいらないようにする)に患者さんなどの被験者を振り分けて行う臨床試験の方法です。
治療や薬剤の臨床試験では、ある治療や薬剤投与を行いその効果を調べることになりますが、単に治療や薬剤投与を行った前後での評価は信憑性が低いとされます。
例えば10人の患者さんに薬剤を投与して9人に効果があったとしても、薬剤以外のなんらかの要因で効果がでた可能性を否定することは出来ません。
したがって対照群つまり薬剤を投与しない患者さんのグループを設定し、効果を比較することで信憑性が高まります。
さらに対照群の設定にも、なにもしない場合よりダミー(偽の治療や偽薬の投与など)を行うことでさらに信憑性が高まります。
これは治療を行うことや薬剤を投与することによるプラセボ効果を排除するために行われます。
対照群にも治療群と同様に見かけ上わからない偽の治療や偽薬を投与して効果を比較します。
さらに研究の信憑性を高めるために、治療や薬剤が、真の治療・薬剤なのか偽の治療・偽薬なのかを検者(研究者)にもわからないようにします。
これを二重盲検と呼んでいます。
この様に治療や薬剤が本物か偽物かを被験者にも研究者にもわからないように隠して行うランダム化比較試験が信憑性の高い研究とされています。
話を過敏性腸症候群(IBS)に対する鍼灸療法にもどします。
現在のコクランデータベースのシステマティックレビューでは、IBSに対する鍼治療の効果は偽鍼と比較して差がなく、鍼治療が有効であるとするエビデンスはないと結論されています。
また、他のシステマティックレビューでも鍼治療の効果はプラセボ効果(心理的効果)によるものだと述べています。
しかし、ここで問題となるのは鍼や灸はヒトの手で行う手技であるため、見た目ではわからない偽鍼を再現することが難しいということです。
ドイツで作製された偽鍼(Streitberger needle;ストレイトベルガー鍼)は、見た目では鍼が刺入されているように見えますが、実際は鍼の先端が皮膚表面で留まり体内には刺入されないような構造になっています。
IBSに対する鍼治療の臨床試験には、対照群としてこの偽鍼が世界中でよく使われています。
しかし、この偽鍼は体内に刺入されてはいませんが、皮膚の表面は刺激しています。
鍼治療には鍉鍼(ていしん)と呼ばれる皮膚表面を圧迫する刺さない鍼や小児鍼と呼ばれる皮膚を擦過するものもあり、日本でも鍼治療でよく使われています。
つまり体内に刺入される鍼でも皮膚表面を刺激している偽鍼でもIBSの症状を改善する可能性があり、鍼治療がプラセボ効果であるとは言えない可能性が考えられます。
プラセボ効果(心理的効果)は鍼灸治療に限らずどのような治療にもあると考えられますし、患者さんにとってはIBSの症状が改善されればいいわけで、その治療方法がプラセボ効果であろうがなかろうがどちらでもいいことのようにも思えます。
ここでさらにIBSに対するプラセボ効果に関する興味深い研究報告を紹介します。
アメリカのハーバー大学のKaptchuk博士らは、IBSの患者さん80人を対象に、対照群には何も処置を行わず、もう一方のグループには偽薬(プラセボ)であるとあえて患者さんに知らせた上で1日2回錠剤を投与しました。
偽薬(プラセボ)には薬効がある実薬が一切含まれていないこと知らせ、薬剤のラベルにも「プラセボ」と表示しました。
さらに医師が充分な時間をかけて、プラセボの有効性やIBSの治療には前向きな心構えや態度が有用であることを説明しました。
その結果、偽薬(プラセボ)を投与された患者さんのグループでは対照群に比べて約2倍の患者さんが充分な症状の改善を示しました。
つまりIBSの治療には、患者さんがIBSを理解し前向きな心構えをもつことが重要だと考えられます。
(Kaptchuk et al : Placebos without Deception: A Randomized Controlled Trial in Irritable Bowel Syndrome. PLoS One, 5(12) : e15591, 2010.)
さらに同研究グループは、IBS患者さんに偽鍼(Streitberger needle;ストレイトベルガー鍼)を行うグループと、「患者さんに思いやりの態度で接する」、「傾聴(患者さんの話を充分に聞く)」、「共感(患者さんの話に共感する)」などの好意的態度で患者さんに接して偽鍼治療を行うグループに分けてその効果を比較しました。
その結果、偽鍼だけでもIBSの症状が改善されましたが、好意的な態度で患者に接することでさらに症状の改善がみられました。つまりIBSの治療には、治療者と患者さんとの良好な信頼関係が重要であると考えられます。
(Kaptchuk et al : Components of placebo effect: randomised controlled trial in patients with irritable bowel syndrome. BMJ, 336(7651) : 999-1003, 2008.)
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