京都市・桂駅近くの鍼灸院
鍼灸院みらい京都桂
〒615-8073 京都府京都市西京区桂野里町41-35 松風桂ビル4F
桂駅 徒歩約3分、近くにコインパーキング有り
便秘に対する鍼灸治療の効果について、これまでの研究成果をご紹介します。
鍼灸治療は、慢性の便秘や便秘にともなう不快な症状(残便感、腹部膨満感など)の改善が期待出来ます。
鍼灸治療は、自律神経に作用して腸の蠕動運動を促し、胃腸の調子を整えます。
当院では、排便状況や身体に関する事、ライフスタイルや仕事などの社会面、服薬状況など詳しくお聞きし、東洋医学的に身体をみて、便秘の原因を推察します。
臨床・基礎研究のエビデンスに基づいた個別の鍼灸施術と日常生活における注意点や改善点のアドバイスにより便秘の改善を目指します。
便秘や下剤の連用などに関するお悩みはお気軽にご相談ください。
【症例】
23歳,女性
小学生の頃より便秘傾向でした。
排便回数は2、3日〜1週間に1回程度で、便は常に硬い兎糞便でした。
排便時の腹痛はほとんどありませんでしたが、常に残便感がありました。
下剤はほとんど使用していませんでした。
【治療部位(ツボ)】
合谷(手の第1、2指の間)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
天枢(臍の約3cm外)
【刺鍼方法】
各ツボに鍼を約1〜2cm刺入し、15分間の置鍼(刺入した鍼をそのままの状態にしておく鍼手技)。
補助療法として、円皮鍼(えんぴしん;1mm程度の鍼がついたテープ)を足三里に貼付しました。
円皮鍼は1mm程度の鍼をテープで皮膚に貼付することで、微細な刺激効果が長時間得られるものです。
【治療回数】
約7ヶ月間に週1回で計30回
【治療経過】
排便回数は3〜4日に1回であったのが徐々に増加し、1〜2日に1回程度まで増加しました(図1)。
また、鍼灸治療開始3ヶ月後(約13回)以降から排便量が少ない日が減少し、これと同時に残便感があった日も減少しました(図2)。
最終的には残便感はほとんどなくなりました。
便の性状では、硬い兎糞便がみられた日が減少するとともに普通便の日が増えました(図3)。
【まとめ】
鍼治療を継続することで排便回数が増加するとともに、便性状も兎糞便が減少し、普通便が増加しました。
また、便秘に伴う残便感もなくなりました。
この方の場合、鍼治療を始めて3ヵ月(10回程度)後より徐々に効果がみられました。
鍼灸治療では、筋肉の凝りや痛みなどには数回の施術で効果が見られる場合が多いですが、内臓機能など自律神経を調整するにはある程度の継続が必要です。
鍼灸治療により腸の蠕動運動を整え便秘を改善するには、ある程度以上の継続が必要となりますので、さらに効果を促すために温灸によるセルフケアをおススメめしています。
お灸は自宅で簡便・安全に出来ますので、適切なツボのとり方や施灸方法、回数などをお教えし、定期的な鍼灸施術と平行して行っていただくと効果的です。
さらに便秘だけでなく体質を改善する事で慢性的な冷えやむくみ、月経困難、倦怠感など様々な症状の改善が期待できます。
【症例】
38歳,女性
5年前より手術入院がきっかけで便秘となり、市販薬の下剤であるウエストン錠(小林薬品工業)を毎晩服用していました。
下剤量は徐々に増加し、5年間に2錠から10錠になりました。
初診時には毎晩10錠服用し、翌朝に排便(1回/日)、便はやや軟便であるが残便感はありませんでした。
さらに下剤が増えることを恐れ、鍼灸治療を希望して来院されました。
【治療部位(ツボ)】
合谷(手の第1、2指の間)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
大腸兪(第4、5腰椎棘突起間の約2cm外側)
天枢(臍の約3cm外側)
【刺鍼方法】
各経穴に鍼を約1〜2cm刺入し、10分間の置鍼
【治療回数】
約9ヶ月間に週1回で計20回
【治療経過】
初診時にお話をお聞きすると、「下剤を1錠減らすと便が出なくなる」と言われたため、「お通じには個人差があって、毎日、排便がなくても不快感などの苦痛がなければ大丈夫です」、「鍼灸治療を行いながら様子をみて、1錠ずつ減らしていきましょう」と説明しました。
下剤を連用されている方は、
毎日、排便がないといけない(気持ち悪い)
現在、飲んでいる量を飲まないとでない(少しでも減らすとでない)
と思われている方が多いようです。
これが固定観念のようになって不安になってしまい、毎日、下剤を飲んでしまうようです。
そこで、鍼灸治療で腸を整え、排便の状態をチェックしながら下剤を1錠ずつ減らしていくこととしました。
8錠までは、ほぼ1日1回の排便があり、下剤を減らすことができました。
7錠に減らすと、排便がない日がみられたため、「でなかった日は8錠にして下さい」とアドバイスしました。
排便間隔が2、3日に1回と開くようになりましたが、特に不快感もないため鍼治療を継続し、半分の5錠まで減量することが出来ました。
5錠まで減量できた時点で、他の理由で治療終了となりましたが、治療を継続していればさらに減量できたと考えています。
【まとめ】
下剤を連用している方には、下剤をストップしたり減量したりすると便が出ないことに不安になる人が多く、なかなか下剤を手放せません。
刺激性下剤の連用は下剤結腸症候群など排便困難を来し、著しくQOL(生活の質)の低下をまねくこともあります。
便秘を根本的に改善するには下剤を離脱することが必要です。
鍼灸治療により腸の蠕動運動を整えることは、下剤減量のきっっかけ・サポートになると考えます。
脊髄が様々な原因(交通事故やスポーツ外傷など)により損傷されると、膀胱・直腸が障害され排尿・排便困難を来すことがあります。
特に排便に関しては、骨盤神経と大脳皮質との連絡が断たれるために便意がなくなったり、結腸および直腸の蠕動運動が弱くなるため、便の移送が悪く便秘になることが多いです。
排便のために下剤の服用や浣腸の処置をしなければならず、場合によっては肛門括約筋の麻痺のために便を失禁することもあり、排便のコントロールに苦労することが多いです。
椎弓切除術(腰椎の骨の一部を切除して脊柱管を広げる手術)後に脊髄損傷を起こし、排尿・排便困難が出現した患者に鍼治療を行い、良好な成績を得ることが出来ました。
【症例】
36歳、男性
第2,3,4腰椎椎弓切除術を受けたが、手術直後より左下肢の痛み、殿部から左足にかけての知覚の麻痺、左足関節の底・背屈不能および排尿・排便障害が出現しました。
便意は無く、便秘のために塩類下剤の酸化マグネシウム1包1gを、排便の状態により適宜、1日に2、3回に自己調節して服用し、排便していました。
下剤の量を増減して排便をコントロールしていましたが、下剤が効きすぎると下痢状態となり、肛門括約筋の麻痺、肛門周囲の知覚麻痺のため便失禁し、一方、逆に効かなければ便秘状態となっていました。
1日の服用量を3回にするとたいてい水様性下痢となり、2回では便秘になるというように、排便を自己コントロールするのに難しい状態でした。
この様に1週間ごとに便秘と下痢を繰り返すために、外出時には常に紙オムツを使用していました。
【治療部位(ツボ)】
合谷(手の第1、2指の間)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
中髎(ちゅうりょう;仙骨部にあるツボ)
※中髎;仙骨は腰の骨である第5腰椎の下にあり、横には骨盤を構成する腸骨があり仙腸関節を構成しています。
仙骨上には上から上髎、次髎、中髎、下髎の4つのツボ(経穴)があります。
排尿・排便を行う下位中枢が仙髄にあり、中髎への鍼刺激が排尿障害を改善したとする研究結果が報告されています。
【刺鍼方法】
15分間の置鍼
【治療回数】
約10ヶ月の間に1週間に2回で計39回
【治療経過】
鍼治療開始時には、便が硬い便と軟便・水様便が交互にみられ、排便が安定しませんでした。
下剤の使用が2回(2g)の時は便秘で、3回(3g)にすると下痢を起こしていました。
しかし、鍼治療1ヶ月後(治療10回以降)には、排便回数は1、2回でほぼ毎日あり、便も硬い便の日があるものの普通便の日が多くなり、排便が安定してきました。
下剤量もほぼ毎日2回(2g)で一定してきました。
下痢の心配もなくなったため紙オムツの使用が無くなりました。
経過良好であった(治療19回以降)ので、下剤を1日に1回(1g)に減量すると、便の硬い日が多くなったものの、排便はほぼ1日に1回ありました。
また、腹部膨満感、嘔気などの排便に関する不快感もありませんでした。
さらに、下剤を中止する(治療33回以降)と、便はすべて硬く兎糞状になったものの、引き続き排便はほぼ1日に1回ありました。
この様な状態で経過観察しながら鍼治療を継続した結果、排便回数は少ないものの下剤なしでも排便があり、排便に関する苦痛もないため、鍼治療を計39回で終了しました。
【まとめ】
①下剤服用時には、便秘と下痢を繰り返し安定しなかった排便状態が、鍼治療により安定し、排便を自己コントロールし易くなりました。
②鍼治療前には排尿時に腹圧をかけてきばって同時に排便していたが、治療後には便意を感じるようになり、自然に排便出来るようになりました。
③下剤なしでは排便が不可能であったが、鍼治療を継続することによって、徐々に下剤を減量し、最終的には下剤なしでも排便が可能となり、排便に関する苦痛もなくなりました。
オムツも不要になり、仕事に復帰(社会復帰)出来るようになりました。
④肛門周囲の感覚および肛門括約筋の収縮の改善はみられませんでした。
全身麻酔による手術後には、麻酔や手術の影響により消化管の蠕動運動が減弱・停止します。
通常は徐々に回復し、排ガス、排便があり食事が出来るようになります。
しかし、まれに腸管の蠕動運動の停止が長引き、麻痺性イレウスの状態になることがあります。
イレウスとは腸閉塞のことですが、麻痺性イレウスの場合は、腸が閉塞しているのではなく蠕動運動が停止し、内容物が肛門側へ送られない状態です。
手術後約2週間、排便がみられなかった患者さんに鍼治療が行われ、効果が見られた例を紹介します。
本症例は明治国際医療大学整形外科で鍼治療が行われたものです。
【症例】
59歳、女性
第9,10,11胸椎椎弓切除術(胸椎の骨の一部を切除して脊柱管を広げる手術)を受けました。
手術直後より排便がなく、酸化マグネシウムやセンノシドの下剤服用、さらに浣腸をしても術後13日まで排便がありませんでした。
そこで鍼治療が行われました。
【治療部位(ツボ)】
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
【刺鍼方法】
2Hzで10分間の鍼通電(刺入した2本の鍼に電気を流す方法)
【治療回数】
1日1回で週に5回
【治療経過】
鍼治療の開始翌日より腸の動く感じを自覚し、排便が見られました(図1)。
その後、鍼治療を約1ヵ月継続し、連日あるいは2,3日に1回の排便がみられるようになりました。
また、鍼治療開始前の腹部膨満感の程度を100とすると、鍼治療9回時には20まで軽減されました(図2)。
全身麻酔による手術後は、麻酔や手術の侵襲により腸管の蠕動運動が停止します。
蠕動運動は時間の経過とともに徐々に回復してきますが、場合によっては回復が遅延し、麻痺性イレウスの状態になる場合もあります。
蠕動運動の回復が遅れると、経口摂取(食事)が可能となるまでの時間も遅くなり、全体的な手術からの回復が遅くなります。
手術直後から円皮鍼を手・下腿のツボに貼付し、手術後の蠕動運動の回復に影響があるかを調べました。
【対象】
消化器(胃、小腸、結腸、直腸、胆嚢、肝臓)、肺、子宮などの切除、摘出手術を受けた患者
【治療部位(ツボ)】
合谷(手の第1、2指の間)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
【刺鍼方法】
円皮鍼(えんぴしん;長さ1mm程度の鍼がついたテープ)を手術直後に貼付しました。
円皮鍼は1mm程度の鍼をテープで皮膚に貼付することで、微細な刺激効果を長時間得られるものです。
【治療回数】
円皮鍼を週3回貼り替え、術後2週間継続しました。
【結果】
腸動(聴診器で腸音を聴取し、腸が動き始めたことを確認します)
排ガス(手術後の初発排ガス時間。排ガスがあったということは、腸の蠕動運動が回復してきたことを意味します)
大便(手術後の初めての排便)
経口(手術後、食事が可能になった時間。腸の蠕動運動が回復したら食事が可能になります)
までの時間を対照群(円皮鍼を行っていない患者のグループ)と比較すると、いずれも円皮鍼を貼付した患者のグループの方が、短かったです。
特に、排ガスについては、対照群が3日以上もかかったのに比べ、円皮鍼を貼付したグループでは2日弱で1日半ほどの差がありました。
【まとめ】
手や下肢のツボに円皮鍼を貼っておくと、手術後の腸管の蠕動運動が早く回復することが確認出来ました。
慢性便秘や過敏性腸症候群(IBS)による便通異常には、食事や睡眠、運動など様々なライフスタイルの要因が関係しています。
そこで多くの方々が便通を改善するために、食事療法をはじめ様々なセルフケアを試しています。
ツボ刺激は、ツボ(経穴)の位置を知っていれば、セルフケアとして行うことが出来ます。
ツボ刺激の方法として、鍼はセルフケアとしては出来ませんが、円皮鍼を貼付する方法であれば簡便・安全に行うことが出来ます。
円皮鍼は1mm程度の鍼がついたテープを皮膚表面に貼付して、微小な刺激を持続的に与えるものです。
有名なものはセイリン社のパイオネックスで、オリンピック選手などのトップアスリートも競技中に貼付しています。
灸は古くからセルフケアとして家庭で行われてきました。
昔は艾(もぐさ)を直接、皮膚上において燃やす直接灸がよく行われてきましたが、火傷や灸痕が残るため現在ではあまり好まれていません。
これにかわり皮膚を直接灼かない間接灸である温灸がよく行われます。
有名なものはセネファ社のせんねん灸でドラッグストアでも多く市販されています。火傷の心配もほとんどなくセルフケアとして用いられています。
便通異常に対する鍼灸治療の場合、2,3回の治療ではそれほど効果は期待できず、数週間〜数ヶ月の継続が必要となります。
そこで定期的な鍼灸治療に家庭で出来るセルフケアを併用することで、より効果が期待できると考えます。
円皮鍼と温灸によるセルフケアの効果を研究した内容を紹介します。
【対象】
便通に不快感を有する者12名(平均年齢23.6歳)男性6名、女性6名
【刺激部位(ツボ)】
天枢(臍の約3cm外側)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
三陰交(下腿の内側で、内果の約5cm上)
【施灸方法】
3日に1回で、4週間の間に計10回の温灸を自宅で行ってもらいました。
セネファ社製のせんねん灸を使用
【結果】
残便感や排便時の腹痛、腹部膨満感などの不快感の割合が減少しました。
また、適度な普通便の割合が増加しました。
【対象】
便通に不快感を有する者30名(男性15名、女性15名)
【刺激部位(ツボ)】
合谷(手の親指と人差し指の間)
天枢(臍の約3cm外側)
足三里(膝関節の外下の前脛骨筋部)
【刺鍼方法】
円皮鍼を3週間貼付してもらいました(3日に1回貼り替え)。
セイリン社製のパイオネックス(0.9mm)を使用
【結果】
残便感や腹部膨満感などの不快感の割合が減少しました。
また、普通便の割合も若干ではあるが増加しました。
慢性便秘に対するツボ刺激の効果については、海外でも研究され論文として報告されています。
ここではツボの皮膚表面への電気刺激の効果について紹介します。
ツボを刺激する方法としては、指で押す(圧迫する)指圧や鍼刺激、灸刺激、電気刺激などがあります。
鍼刺激には、刺入した鍼を数十分間そのまま刺入した状態にする置鍼(ちしん)や2本の刺入した鍼に電気を流す鍼通電刺激(電気鍼)などがあります。
電気刺激は皮膚表面上に電極を貼り付け電気を流す方法で、専門的には経皮的電気神経刺激(TENS;Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)と呼んでいます。
鍼通電刺激やTENSでは、筋肉に電気が流れますので筋肉がピクピクと収縮を起こし、より強い刺激を与えることが出来ます。
1.Daily transabdominal electrical stimulation at home increased defecation in children with slow-transit constipation.
11人の慢性便秘の小児を対象に、肋骨弓下縁の腹壁と腰背部(Th9からL2)にTENS(80〜150Hz,1時間)を2ヵ月行った。
11人中9人の排便頻度が増えた。
2.Percutaneous tibial nerve stimulation for slow transit constipation: a pilot study,
18人の慢性便秘患者を対象に、脛骨神経領域にTENS(30分間)を12回行った。
排便回数の増加とQOLが改善した。
脛骨神経は下腿内側に分布している神経で、排便中枢のある仙髄(S2,S3)の仙骨神経から分枝しています。
また、この仙骨神経は膀胱、直腸にも分布していることから、脛骨神経領域を電気刺激すると直腸にも影響すると考えられます。
3.Transcutaneous Neuromodulation at Posterior Tibial Nerve and ST36 for Chronic Constipation.
12人の慢性便秘患者を対象に、脛骨神経領域(下腿の内側で内果(うちくるぶし)の約5cm上でツボでは三陰交に相当)と足三里にTENS(25Hz,1時間)を2週間行った。
排便回数の増加とQOLが改善した。
4.Transcutaneous parasacral electrical stimulation vs oxybutynin for the treatment of overactive bladder in children: a randomized clinical trial.
28人の過活動性膀胱の小児を対象に、仙骨部にTENS(10Hz,20分間)を週に3回で計20回行った。
便秘を有した6人全員の便秘が改善した。
排便反射の下位中枢は仙髄のS2,3にあるため、仙骨部にある次髎(じりょう)や中髎(ちゅうりょう)というツボを刺激すると排便に影響すると考えられます。
5.The effect of SSP therapy on elderly nursing home residents' chronic constipation.
30人の介護施設に入所している慢性便秘の高齢者(65歳以上)を対象に、天枢にSSP通電(SSP電極を用いた電気刺激,1Hz,20分間)あるいは鍼治療(20分間)を週に5回で4週間(計20回)行った。
SSP通電、鍼治療ともに排便回数を増加させ、便秘の症状が改善した。
6.Acupuncture for Chronic Severe Functional Constipation: A Randomized Trial.
1075人の難治性便秘患者を鍼治療グループと偽鍼治療グループに分けた。
鍼治療グループは、天枢、腹結(臍の約10cm外のやや下)、上巨虚に鍼通電(10-50Hz,30分間)を8週間(計28回)行った。
偽鍼治療はそれぞれのツボよりやや離れている部位に行った。
鍼治療では31%の便秘が改善したが、偽鍼治療では12%であった。
12週間後には、鍼治療グループでは便秘が改善した人は38%に増えていた(偽鍼治療グループでは14%)。
7.The Efficacy and Safety of Transcutaneous Acupoint Interferential Current Stimulation for Cancer Pain Patients With Opioid-Induced Constipation: A Prospective Randomized Controlled Study.
鎮痛薬(オピオイド)の服用により便秘となった癌患者(98人)を対象に、天枢、中脘に経皮的通電(80-120Hz,30分間)を2週間(計14回)行った。
経皮的通電治療は癌患者の便秘とQOL(生活の質)を改善した。
8.Electroacupuncture for Women with Chronic Severe Functional Constipation: Subgroup Analysis of a Randomized Controlled Trial.
415人の重度の慢性便秘の女性を対象に、天枢、腹結(臍の約10cm外のやや下)、上巨虚に鍼通電(10-50Hz,30分間)を8週間(計28回)行った。
排便頻度や便の性状、QOL(生活の質)の改善がみられた。
改善効果は治療終了12週間、継続した。
9.Nonpharmacological conservative treatments for chronic functional constipation: A systematic review and network meta-analysis.
慢性の機能性便秘に対する非薬物療法の効果を検討するために、33の臨床試験の論文をメタ解析した。
排便頻度の改善では、TENS、プロバイオティック、鍼治療に高い効果がみられた。
特に鍼治療で改善率が高かった。
便性状(ブリストルスケール)の変化では、灸治療に高い効果が見られた。
下剤と比較して鍼治療は、排便頻度の改善、安全性が高かった。
【まとめ】
脛骨神経領域や仙骨部、腹部、腰背部への電気刺激は、便秘に効果があると考えられます。
鍼灸治療が、便秘や下痢などの便通異常にどのように作用するのか(メカニズム)を実験研究によって検証したエビデンスを紹介します。
ここでは、ツボへの鍼や灸の刺激が、腸管にどのように影響するのかについて、当院院長が行った研究結果について紹介します。
①ヒトの腸の蠕動運動を直接記録することは難しいため、腸音を測定しました。
小腸や大腸などの腸管が蠕動運動をする際に、腸液や内容物が送られて腸音が発生します。
「お腹が鳴る」と言いますが、腸音が強い場合は耳から音が聞こえますが、聞こえない音も聴診器をお腹にあてて聞くと良く聞こえます。
聴診器の代わりに高感度のマイクロフォンをお腹の皮膚表面にテープで固定し、マイクロフォンか腸音を聴取し、デジタル処理して波形化しました。
図は約40分間の腸音の記録波形です。
黄色のバーで示す10分間に合谷(ごうこく;親指と人差し指のつけねの間)と足三里(あしさんり;膝関節のやや下の外方)というツボに、鍼を深さ約1cm 刺したままの状態にしています。
鍼を数十分間、刺したままにすることを置鍼(ちしん)と言いい、鍼治療によく用いられる手技です。
鍼をする前と置鍼している間に比べて、鍼を抜いた後の20分間で腸音の波形が強く、多く見られています。
つまり手の合谷や下腿の足三里に鍼をすると腸の蠕動運動が活発になることがわかります。
②上の実験と同様の実験を9人の健康な被験者を対象に行いました。
腸音を記録してデジタル処理し、腸音の頻度の平均値を算出しました。
図の赤のバーは無刺激対照群つまり鍼をしない9人の30分間の腸音の変化を示しています。
緑のバーは上述した実験と同様、合谷、足三里に10分間、置鍼したもので、対照群に比べて鍼を抜いた後で倍以上に腸音の頻度が増加しました。
ブルーのバーは中脘(ちゅうかん;上腹部、みぞおちと臍の間)、天枢(てんすう;臍の約3cm外)、関元(かんげん;臍の約3cm下)という腹部にあるツボに置鍼したもので、手足のツボの場合と同様、鍼を抜いた後で腸音の頻度が増加しました。
手・下腿のツボの場合と違う点は、置鍼している間に有意に腸音が減少した事です。
過去の動物実験でもわかっている事ですが、お腹の皮膚表面に強い刺激を与えると一時的に胃や腸の蠕動が抑制されます。
最後のピンクのバーは手・下腿と腹部のツボに同時に鍼をしたものです。
③上の実験と同様の手順で、お灸をした場合の結果です。
お灸は米粒の半分くらいの大きさの艾(もぐさ)を直接、皮膚上に置いて燃焼させる直接灸というやり方で3壮(艾を同じ部位で3回燃やします)行いました。
一瞬、熱さを感じる程度のものです。
お灸をした場合は鍼をした場合と違い、お灸刺激後の30分間にわたって腸音の頻度が減少しました。
特にお腹のツボにお灸をすると腸の蠕動が抑制されることがわかりました。
以上のヒトの腸音の実験から、
が確認出来ました。
このことから腸の蠕動運動が鈍っている便秘には手・下腿のツボへの鍼刺激が、腸の蠕動運動が亢進している下痢にはお腹のツボへの灸刺激の効果が期待出来ます。
ただし、この実験は便秘や下痢などがないヒトを対象に行っていますので、便秘や下痢などのヒトでは反応性が異なります。
動物実験の結果でも紹介しますが、腸の蠕動運動が異常に亢進した状態、つまり下痢の状態に下腿のツボに鍼をすると、蠕動運動の亢進が抑制されました。
このように鍼灸刺激は生体を正常な状態に戻すように作用すると考えられます。
したがって手・下腿のツボへの鍼刺激によって下痢が軽減する場合もみられます。
ではなぜ、手や下腿のツボに鍼をすると腸の蠕動運動が活発になるのでしょうか。
その作用機序(メカニズム)を調べるために、ラット(ネズミ)を用いた動物実験を行いました。
鍼のメカニズムの話にはいる前に、ヒトや動物の消化管(胃や腸)の蠕動運動について紹介します。
実は胃や腸は、日々、規則正しく動いています。
ヒトや動物(ネズミやイヌなど)の消化管は、心臓などの他の臓器と同じように規則正しく動いており、空腹期(胃の中が空っぽな状態)と食後期(食物を摂取し胃の中に食物がある時)の2つのパターンを繰り返しています。
空腹期には蠕動運動が見られないフェーズⅠ、その後に弱い蠕動運動が見られるフェーズⅡ、その後に強い蠕動運動が見られるフェーズⅢの一連の空腹期強収縮運動と呼ばれる蠕動運動が周期的に繰り返されます。
お腹が空いている時に、「腹がグーグー鳴る」のはフェーズⅢの強い収縮によるものです。
図はラット(ネズミ)の空腹期と食後期の小腸の蠕動運動を記録したものです。
ストレインゲージと呼ばれる歪みを測定するセンサーを小腸に装着して記録しました。
ラットの場合、空腹期には1時間に2、3回(20〜30分周期)の強収縮運動が見られますが、ヒトの場合は、1時間半に1回の強収縮運動が見られます。
胃からはじまった蠕動運動は、小腸、大腸へと続いていきます。
イヌの胃、十二指腸、小腸、結腸(大腸)にストレインゲージを装着し、消化管運動を記録したものですが、強い収縮波は胃から起こり、次に十二指腸、小腸(空腸と回腸)、結腸(大腸)と下の方(肛門側)に伝搬していきます。
なぜこのような強収縮運動が空腹時に起こるのかについては、腸管内の食物残渣や粘膜が剥がれたものなどを定期的に流して、腸管内をきれいに保つためと考えられています。
一方、食事をして胃に食物が入ると、空腹時より弱い蠕動運動が数時間にわたって持続します。
興味深いのは摂食したと同時に腸の蠕動運動のパターンが変わることです。
胃炎や慢性便秘、過敏性腸症候群などの胃腸の機能が低下している場合は、このような規則正しい消化管運動が乱れているのかもしれません。
手や下腿のツボに鍼をすると腸の蠕動運動が活発になる作用機序(メカニズム)について、ここでは下腿の足三里への鍼刺激の効果について紹介します。
「足三里(あしさんり)」と言うツボは、膝のやや下の外側で、筋肉では足関節を背屈させる前脛骨筋上にあります。
古くから健康増進のツボとされ、松尾芭蕉の『奥の細道』には、三里に灸をすえて長旅に備えたという記載があります。
また、古くから足三里は胃腸などの消化器の症状に効果があるとされ、鍼灸治療でも最もよく使われるツボの一つです。
どのようにして足三里への鍼刺激が腸の蠕動運動に影響を及ぼすのでしょうか。
ラット(ネズミ)の近位結腸(小腸に近い結腸)と遠位結腸(肛門に近い結腸)の2カ所に、ストレインゲージと言う歪みを測定するセンサーを装着して結腸の蠕動運動を記録し、足三里に相当する部位(膝関節の下)にラット用に作製した微小な鍼を刺入して、電気刺激を行いました。
鍼通電刺激の結果、近位結腸では変化がみられませんでしたが(図1のA)、遠位結腸の蠕動運動が鍼刺激後の数時間、活発になることが観察されました(図1のB)。
結腸(大腸)の蠕動運動を調節している神経には、迷走神経と骨盤神経と言う2つの副交感神経(自律神経)があります。
このうちヒトの場合は、小腸に近い右側の結腸(上行結腸など)は迷走神経が、左側の結腸(S状結腸など)は骨盤神経が支配し、蠕動運動を活発にする作用があります。
骨盤神経へ命令を発する大元には、上位中枢(脳幹)と下位中枢(仙髄)があります。
脳幹は大脳の下にあり橋や延髄がありますが、橋や延髄には呼吸や循環などの生命維持に必要な中枢があります。
排便や排尿に関係する中枢も脳幹の橋にあり、骨盤神経のおおもとであるバーリントン核と呼ばれる神経核があります。
足三里への鍼通電刺激が、このバーリントン核に伝達されていることを示す特殊な細胞の発現が実験によって確認できました(図2)。
つまり足三里への鍼刺激のシグナルが脊髄を上行して、橋のバーリントン核に伝えられ、バーリントン核からのシグナルが脊髄を下降して仙髄を経由し、骨盤神経が興奮して結腸運動が活発になったと考えられます(図3)。
この研究は、2006年の『American Journal of Physiology -Gastrointestinal and Liver Physiology』というアメリカの医学雑誌に論文として掲載されました。
Iwa M, Matsushima M, Nakade Y et al: Electroacupuncture at ST-36 accelerates colonic motility and transit in freely moving conscious rats, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol, 290 (2006) G285-92.
〒615-8073 京都府京都市西京区桂野里町41-35 松風桂ビル4F
桂駅 徒歩約3分
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午後 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
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